インタビュー
京橋の変遷を見つめ続けて90年。『明治屋』は街のランドマーク
株式会社明治屋 取締役 人事総務部長 金子聖
2023.04.28
京橋にゆかりのある人に、街の魅力を語っていただくインタビュー。今回は、京橋のランドマーク的な存在である「明治屋」の取締役 金子聖さんにお話を伺いました。
関東大震災後、京橋に移転して90年。ランドマーク的な存在の「明治屋」
--「明治屋」と京橋のつながりについて教えてください。
金子さん
「明治屋は1885年に横浜で創業しました。現在も行っている船舶納入業という、船で使う食品や日用品を納める業務が主な事業で、同時にビール販売事業や海外から食品やお酒も輸入して国内販売も行いました。明治時代に銀座に進出しましたが、1923年の関東大震災で焼失したため、京橋に堅固なビルを構えたという経緯があります。1933年から京橋が本店になり、今年でちょうど90年を迎えました。」
--なぜ京橋が選ばれたのでしょうか。
金子さん
「それについては推測になりますが、1927年に開通した地下鉄銀座線が、1932年に京橋まで延伸されました。このビルは設計段階から地下鉄出口と直結する形で作られているので、おそらくそれも理由の一つだったのではないでしょうか。現存する地下鉄駅直結のビルの中で、この明治屋ビルは最古のものだそうです。」
--その頃は、どのようなお客様がいらしたのでしょうか。
金子さん
「これも推測ですが、当時は食品に限らず、雑貨や文具なども扱っていたので、百貨店のようなイメージで幅広いお客様にご利用いただいていたのではないでしょうか。舶来品を扱っているモダンな店舗で、ショーウィンドウなども注目される、ランドマーク的な存在だったようです。
その後、第二次世界大戦の空襲を経験しましたが、幸いなことに被害は小さく、90年間ずっとお客様にいらしていただいています。」
お洒落でレトロな明治屋ビルは、建築ファンの間でも人気
--歴史ある建物が素敵です。建築好きのお客様も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
金子さん
「この明治屋京橋ビルは、中央区指定有形文化財の第一号に指定されています。イタリア・ルネサンス様式のお洒落なデザインが目を引くので、外観を撮影なさる方も多いですね。大理石の柱や床に化石が残っていて、それを目的に足を運んでいただく方もいるようです。
また、建物の柱に付いている街灯も特徴的で、このあたりに長くお住まいの方からは『この街灯のファンだ』というお声もいただきます。夕方になると、まるでぼんぼりのように灯って、オシャレなんですよ。リニューアルの際に取り外して分解したのですが、昔の職人の手作りで、今ではもう新しく作れない貴重なものでした。
隣接する『京橋エドグラン』は、設計時から建物の高さをこちらと揃えるプランになっていて、街並み全体でも調和が取れていますね。」
30年前は、生活の“匂い”がある下町だった
--再開発が進む京橋ですが、街の変化を感じることはありますか?
金子さん
「私が明治屋に入社したのはかなり以前になりますが、入社当時は路地を一本入ると民家が並んでいて、下町の匂いがありましたね。出社するときに、自転車に乗った市場帰りの職人さんとすれ違うような、そんな街でした。近くの居酒屋さんやお寿司屋さんで『明治屋に勤めている』と話すと、『いつも買い物に行っているよ!』と声をかけていただいて、当店の名物の一つであるジャムを持っていくとサービスしてもらったり……。そんな交流がありました。2000年頃から再開発が始まり、民家や小さな店舗はずいぶん減りました。」
--人の流れも変わりましたか?
金子さん
「そうですね。このあたりは銀行やオフィスビルが多いので、平日は人通りがあるけれど土日はちょっと寂しくはなります。ただ、まだお住まいの方もいらっしゃって、柳通りや裏手に入ると、今も生活の匂いが残っています。」
週末の食料品は明治屋で!リピーターも多く通う
--再開発でオフィスワーカーの方が増えたと思いますが、オフィスワーカーの方に人気の商品はありますか?
金子さん
「仕事帰りに野菜や果物のパック、冷蔵や冷凍の食品などを購入される方が多いですね。またワインお買得の日は、ケースでご購入になるリピーターの方も多いですね。全体的に、金曜日の夜は多くのお客様がご来店される傾向にあります。週末にご自宅や外出先で使うものを、明治屋でお買い求めいただいているようです。」
--「売れ筋」はどのような商品ですか?
金子さん
「京橋ストアーにおいては、圧倒的にジャムをご支持いただいています。これは全般的に言えることなのですが、かつては“〇〇と言ったらコレ!”という定番商品が主でしたが、現在は果物の産地や品種、糖度など、一つの商品に対して幅広く展開しています。お客様の嗜好が多様化している表れでしょうか。」
オフィスワーカーたちの同窓会会場?『京橋モルチェ』で会いましょう!
--京橋でオススメのランチがあれば教えてください。
金子さん
「宣伝のようになってしまいますが(笑)、明治屋の地下1階にある洋食レストラン『京橋モルチェ』(取材記事 )ですね。ハンバーグが一番の名物ですが、私は個人的に『スカロピニ』が好きです。トマト味のパスタの上にヒレカツを乗せ、チーズをかけてオーブンで焼いた料理です。ガーリックの風味が効いていて、とても美味しい。数ヶ月に一度、非常に食べたくなる瞬間がやってきます。
また、その隣にある『ワイン亭』でもランチメニューをご用意しています。当社直輸入のパスタ中心のメニューですが、こちらもオフィスワーカーの方にご利用いただいています。」
--京橋駅直結なので、アクセスもいいですね。
金子さん
「『京橋モルチェ』は、かつて京橋で働いていたOB・OGの方々の集まりにも多くご利用いただいているんですよ。『明治屋のモルチェ』と言えば皆さん覚えていてくださるので、利便性が良いようです。昼から楽しそうにビールを飲みながら会食していて、私も早く参加できる立場になりたいと思います(笑)。
和食だと、お蕎麦の『山茂登』(取材記事)さんによく行きます。再開発前は明治屋の裏手に店舗があって、若い頃は残業をするとよく『山茂登』さんから出前を取っていました。今は亡き店主が岡持ちを担いでエレベーターを上がってくる姿は、思い出の一つです。今は『京橋エドグラン』の地下1階にありますが、これからも通い続けたいお店です。」
明治屋ホールのイベントで、街をもっと元気にしたい
--明治屋7階にはホールもありますが、イベントなど開催されているのでしょうか。
金子さん
「コロナ禍で中断していますが、以前は新年に文化人や政治家の書を展示即売する『吉書展』が催されており、多くの人にご来場いただきました。以前ほどではありませんが、最近ではイベントの開催も増え、アートフラワーのイベントや企業の講演会などにご活用いただいています。地下鉄駅直結とアクセスも良いので、京橋の街が活気づくようなイベントなど、様々な形でご活用いただけると嬉しいですね。」
--『京橋エドグラン』の中央ひろばでも、様々なイベントが開催されています。
金子さん
「昨年は、ウイスキーの販売イベントをやらせていただきました。お得意先やお客様に感謝の気持ちを伝えられる、良いイベントだったと思います。
お正月は、エドグランに獅子舞が来ますね。また日枝神社の『山王祭』(取材記事)の時期はお神輿も練り歩くので、賑やかになります。このような伝統的なイベントが開催されているのも、京橋に住む人たちの“つながり”の強さの表れではないでしょうか。」
これからの京橋に必要なものは「街の回遊性」
--京橋の街がより発展するために、何が必要だと考えますか?
金子さん
「京橋は繁華街の銀座と日本橋の間にありますが、企業が多く落ち着いた雰囲気の街です。その分、商業的な面では少し弱いので、東京駅から銀座、日本橋に回遊できるようになるといいな、と考えています。現在は八重洲の再開発が進んでいますが、地下街がつながれば京橋に立ち寄っていただく方も増えるでしょうし、また地上でも路面店などが増えれば、ブラブラと歩いて楽しい街になるでしょう。
京橋は、銀座や日本橋と比べると下町の“生活感”がまだ残っています。難しいことでしょうが、住む人が増えてくれれば、京橋の街の魅力が増すのでは、と思います。」
PROFILE
- 株式会社明治屋 取締役 人事総務部長 金子聖
- 会社名:株式会社明治屋
WEBサイト:https://www.meidi-ya.co.jp/
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