インタビュー
自社の利益ではない、未来の東京を作るプロジェクト『京橋エドグラン』
京橋二丁目西地区市街地再開発組合 事務局長:高橋 勝巳
2017.04.06
東京の中心地にあり、名だたる企業がオフィスを構え、情報や文化を発信している大規模な施設『京橋エドグラン』。ここには、世界的な人気を誇るスイーツ店『トシ ヨロイヅカ』、老舗スーパーマーケット『明治屋』、人気ビアレストラン『京橋モルチェ』が入店し、国内外から多くの方がやってきます。
この東京を代表するスポットに聳え立つ巨大施設の誕生プロジェクトは、15年前までさかのぼります。今回はその秘話について、『京橋二丁目西地区市街地再開発組合』の事務局長 高橋勝巳さんにお話を伺いました。
「この組織は、京橋エドグランを完成させる目的で2011年に都知事の認可をうけて発足しました。私が所属している会社・日本土地建物株式会社ほか、2社から専門性の高いメンバーが参加しています。“エキスパートの寄せ集め所帯”ともいうべきでしょうか。3つの会社から人が集まっているのですから、仕事の進め方、社内文化が全く違います。そういう人々とチームになってプロジェクトを推進したことは、いい経験になりました。」
実現への高いハードルを越えるまで
京橋エドグランのプロジェクト推進にあたり、もう無理かもしれないと思ったことは数知れずあると、高橋さんは続けます。
「やはり、この土地で生活や仕事をしていた方全員からの同意を得て、工事のために同じタイミングで明け渡し、移転していただくというハードルは高かったと感じます。地区内には、当初約40名の地権者の方々がいました。皆さん、バブル期の土地高騰を乗り越え、東京の中心地・東京駅の近くに不動産を所有しています。京橋という土地に誇りを持ち、勉強家の方々ばかり。私達は、その地権者の方々の信頼と同意を得るために、チーム一丸となって不動産、税金や相続をはじめとする必要な知識を勉強しました。」
「どんな困難に見えることでも、突破口はあるものです。交渉が困難を極めても地権者の方々が何を不安に思っているのかを探り、話し合いに伺っていました。落ち込んだこともありますが、私達はチームですから交渉のメンバーを変えたり、趣味や嗜好の話をするなど、信頼していただくためにさまざまな対策を考え実行に移していました。」
「京橋を変えたい」強い思いが状況を変えた
高橋さんを動かしたのは、自社の利益のためではありませんでした。「ある雨が降る冬の日に、交渉がうまくいかず、夜になってしまったことがありました。京橋の街を歩いていたときに、街を見渡すと、東京駅から徒歩圏内なのに古い雑居ビルばかりで、その中には公序良俗の観点からもいかがなものかと思うテナントも入っていました。世界的に注目される東京の玄関口なのに、このままでは沈むばかりだと危機感を覚えたのです。もちろん地権者の方の思いや、この街の歴史や伝統もあります。京橋二丁目が持つ文化に敬意を払いつつ、刷新して行かなくては未来がない。自分たちは未来の東京を作っているんだと感じました。」
高橋さんが“未来のための仕事だ”と強く思ったのと時を同じくして、ある地権者の方が“土地は誰のものでもない日本の国土だ”と語りました。偶然なのか、それとも高橋さんたちの京橋の町を変えたいという思いが通じたのかはわかりません。しかし、この地権者の一言で、間違いなくベクトルは同じ方向に向き始めたのです。実際に、それをきっかけに合意が急速に進んだと続けます。
「2011年に東京都から事業認可をもらい、2013年の明け渡し、2016年にグランドオープンというスケジュールを守ることができたのも“思いは伝わる”という信念が大きいと感じます。私達も地権者の方々も、京橋エドグランを“巨大な船”に例えていました。動き始めた巨艦は急には止まれないし、曲がれません。まして、戻ることなんて絶対にできない。そういう皆の気持ちがあったから、京橋エドグランが完成したのだと感じています。」
長きにわたるビッグプロジェクトを成し遂げた高橋さんの胸にあるのは感謝の言葉。
「完成した時に、地権者の皆さんから“あなたを信じてよかった”“あのときは怒鳴って悪かった”“あなただからここまでついてきた”と声をかけていただき、感謝ばかりで涙しました。」
高橋さんの想いをよく表しているのが、施工者主催で京橋エドグランのオープン前に関係者とその家族を招待したお披露目会を行ったこと。ここには社員だけでなく、文字通り“関係者とその家族”を招待したといいます。
「一時期は、1,000人を超える職人さんが京橋エドグランの工事現場にいました。お披露目会に来てくださった職人さんの子ども達が“パパがこれをつくったんだね”と嬉しそうに話していました。その笑顔に、未来につながる仕事をしたのだと感無量でした。ほかにも、工事車両に給油してくださる業者さん、工事現場の囲いの外の清掃を毎日してくださった警備の方や職人さん、有害物質の調査をしてくださった方、工事途中に江戸時代のかんざしが出土し、それを丁寧に調査してくださった学生さん、工事現場内の食堂のスタッフのみなさん、資材工場のみなさま、許認可のために尽力してくださった行政の皆さま。感謝の言葉でいっぱいです。」
「オフィスには、世界的企業が入居してくださっていますし、オープンイノベーションを生み出すシェアオフィスもあります。買い物やグルメはもちろん、音楽やアートのイベントも開催し、観光のハブとしての役割も担っています。新旧の文化、多様な背景を持つ人々の交差点として、人々が幸せになる未来に向けて進んでいると感じています。」
たくさんの人の思いを乗せて、今日も京橋エドグランは、未来に向けて進み続けています。
PROFILE
- 京橋二丁目西地区市街地再開発組合 事務局長:高橋 勝巳
- 1991年に日本土地建物株式会社に入社。不動産鑑定、法人営業、コンサル、不動産ソリューション事業を経験し、2007年から開発事業に従事し、2011年から現職。
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